黒田 官兵衛 5
「松千代を殺せ」といわれて、
秀吉の心は千々に乱れます。
その思考は同じ道を行ったりきたりして、
一向に結論にたどり着く気配はありません。
主君の命にそって、松千代を殺すべきなのか
・・・それとも、官兵衛を信じて、
この子をかばい尽くすのか・・・
秀吉は心底、官兵衛を信じていましたから、
「裏切るはずがない」という確信はありました。
しかし、君命に違背した場合、
自分一身の死はもちろんのこと、
その累が一族にも及ぶことも・・・
秀吉の苦渋を深める一因でもあったのでしょう。
長い沈思の後・・・ついに秀吉は「一身を賭しても、
この子の命を救おう」と決断したのです。
すぐさま、竹中半兵衛に相談します。
半兵衛もまた、官兵衛の人品を高く評価していましたから、
「我が身命に変えてお守り通す」というのです。
この場面が、太閤記の中で、
私がもっとも好きな部分です。
官兵衛という人物は、何と幸運だったのかと
・・・感嘆せずにはいられません。
いや、自己の人品が高かったからこそ、
秀吉も、半兵衛も「この人には、
命さえかけても悔いはない」
といった心情にさせたのでしょう。
あなたに・・・あなたのために命をなげうってもいい
と思ってくれる人がいますか・・・
この話を、いつもクラスでするとき、
それまでざわめいていたクラスが、
この話に来たとき、一瞬に静止すのです。
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